袖のボタンの数に正解はあるのか?
- web7455
- 1 日前
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現在ではほとんどの場合、装飾として付けられることの多いジャケットの袖ボタンですが、その歴史や背景を知ると、装うことがより楽しくなると思います。
ということで、今回は袖ボタンについて深掘りしていきます。
袖ボタンの始まり
そもそも、ジャケットの袖口に付いているボタンは何のためにあるのでしょうか。有名な説がいくつかあります。
ひとつは「ナポレオン説」。1812年のロシア遠征で、兵士が寒さで鼻水を袖で拭っていたことにナポレオンが激怒し、袖口に金属ボタンを付けさせた、という話です。ただし、ナポレオン以前にも軍服に袖ボタンの例があり、この説はエピソード的な面が強いとされています。(俗説扱いされることが多い)
もうひとつは「医療・処置説」。戦場で負傷した兵士を手当てする際、腕をまくりやすいように袖口を開閉できるボタンが付けられたという説です。野戦病院の衛生環境や処置のしやすさを考えると、これは合理的な仮説でもあります。
要するに、袖ボタンは本来、機能(function)として生まれ、現代ではファッション(fashion)として形を残している痕跡と考えるのが妥当でしょう。
ボタンの「数」が語るもの
次に、袖ボタンの数に注目してみましょう。現代のスーツでは 3〜4 個が一般的ですが、1個から5個まで様々な仕様が見られます。
この数にも、軍服由来の説があります。
特定の連隊を示すシンボルとして、袖ボタンの数が用いられていたという説です。
5つボタン:ウェルシュガーズ(ウェールズ近衛連隊)

4つボタン:アイリッシュガーズ(アイルランド近衛連隊)

3つボタン:スコッツガーズ(スコットランド近衛連隊)

2つボタン:コールドストリームガーズ(イングランド近衛連隊)

1つボタン:グレナディアガーズ(後のチャールズ2世による創設)

現代のスーツに受け継がれる“バランス”
現在では、最もバランスの取れた3つ〜4つボタンが主流です。とはいえ、最古のグレナディアガーズの仕様は、そのシンプルさゆえに現代のスーツデザインに近い印象を持っています。
たとえば、ブルックスブラザーズのブレザーが2つボタンであるのも、そうした軍服由来の名残の一つだと考えられています。
ボタンは、ただの装飾に見えても、そのひとつひとつに「かつての機能の記憶」が宿っている。そう思うと、袖元を眺める時間が少しだけ特別に感じられます。
いまでは“当たり前”になったディテールも、最初はすべてに理由がありました。やがてその理由が忘れられ、形だけが残り、そこに新たな意味が生まれる。ファッションとは、そんな「記憶の継ぎ目」で進化を続ける文化なのだと思います。
袖のボタンも、単なる飾りではなく「歴史の名残」。そう思えば、ひとつのボタンを選ぶことさえ、装う人の哲学になるのではないでしょうか。

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