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スーツ本来の「適切なフィッティング」とは

  • web7455
  • 10月14日
  • 読了時間: 4分


ここ数年、テーラードスタイルが世界的に再注目されています。モードの最前線でも、メゾンブランドが90年代的な構築性を再解釈したジャケットや、リラックス感のある素材やディテールをスーツに落とし込んで提案するなどの動きが見られます。


メンズドレスの世界においても、クラシック回帰の流れがじわじわと浸透してきました。

体にぴったり沿う細身のスーツから、程よいゆとりを持たせたリラックス感のあるシルエットへの関心が高まっています。

3〜4年前から海外の業界誌や展示会でも顕著になり、日本国内でもその影響を受けたスタイルを目にする機会が増えています。


ただ、こうした流れはあくまで一部の業界人や服に強い関心を持つ層のあいだでの話にとどまっているというのが現実かもしれません。


街中では、依然としてスリムなスーツが根強い人気を誇っています。

細身のフィッティングによって「スタイルがよく見える」といった印象を持たれる方が多く、これまで定着してきたスタイルの延長線上でスーツを選ばれている方が大半です。


クラシックの回帰からスーツ本来の適切なフィッティングを考えていただければと思います。

ただスリムなスーツを否定するのではなく、「今、スーツに何が求められているのか?」を見つめ直すきっかけになれば幸いです。



「窮屈な細さ」で失うスーツの品格


街で見かける細身のスーツの多くは、「スタイルアップ」を追求するあまり、本来スーツが備えているはずのエレガンスや威厳を、皮肉にも“窮屈さ”によって損なってしまっているように見えます。

極端な細さは、動作を制限し、生地を張らせ、不自然なシワを生み出します。胸や腹部に強く出たシワは、服に押し込められているような印象を与えます。


スーツの品格を決定づけるのは、体に張り付くラインではなく、肩から裾へ流れる「ドレープ」です。これが失われると、服は平面的になり、どんなに高価な生地でも安っぽく見えてしまいます。

また、ゆとりを欠いたスーツは、体型の欠点をそのまま露わにします。本来スーツとは、立体的な構造によって身体を補正し、包み込むための服。細さの追求が行き過ぎると、その本質的な機能を失ってしまいます。



スーツ本来の「適切なフィッティング」とは

適切なフィッティングとは、単に“細いこと”ではなく、「快適性」と「立体的な美しさ」を両立させることだと思います。


たとえば、ジャケットの胸元には拳ひとつ分の“遊び”が必要です。ボタンを留めても呼吸が楽にでき、立っていても座っていても自然に見える。そんな余裕が、装う人の姿勢や表情にもゆとりを与えます。

パンツも同様です。ヒップを自然に包み込み、太ももから裾へ向かって美しいラインを描くゆとりがあることで、シワや突っ張りがなくなり、着ていても見ていても心地よい印象になります。


スーツの「スタイルがよく見える」理由は細さではなく、構築性のある立体感と柔らかいドレープによる陰影にあります。極端にタイトなシルエットは流行とともに色褪せますが、適切なゆとりをもつクラシックなフィッティングは、時代を超えて行き続けるのではないでしょうか。




「今、スーツに何が求められているのか?」


働き方の変化やオフィスのカジュアル化が進む中で、現代に求められているのは「ストレスを与えないスーツ」ではないでしょうか。長時間のデスクワークや移動にも耐え、心地よく、動作を妨げない。その“リラックス感”こそが、今の時代のスーツにとって最大の機能なのだと思います。

そしてもう一つ大切なのは、「本物の信頼感」です。細さによる一時的な印象ではなく、動きや仕草に現れる余裕が、着る人の落ち着きと自信を引き出す。その余裕が、ビジネスの場でこそ求められる信頼感につながっていくのです。


クラシック回帰の流れは、単なるファッションのサイクルではなく、現代社会に適応したスーツの“再定義”だと私は考えています。


「細身=スタイルが良い」という固定観念から離れ、快適で美しいフィッティングの中にある本当の価値に気づくこと。

それが、これからの時代にふさわしいスーツスタイルを築く第一歩になるのではないでしょうか。







執筆者のプロフィール画像
脇山 晃樹 1998年、東京都出身。バンタンデザイン研究所ファッション学部を卒業後、大手紳士服メーカーのオーダー部門で7年間勤務。現在はDrapper Hopeでフィッターとして活動。

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