第2回スーツ生地の基礎構造——打ち込みを知る
- web7455
- 9月2日
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更新日:4 日前
全6回にわたって生地の構造をご紹介していくこの企画。
前回は、生地の“骨格”とも言える「織り」について、三元組織と代表的なファブリックを交えてご紹介しました。今回はその織りを構成する要素の中から、特に“密度”に関わる「打ち込み」に焦点を当ててお話しします。
服地を見る際に、この「打ち込み」に目を向けている方がいると、「あ、この人はわかってるな」と密かに思ってしまいます。
ぜひご一読いただければ幸いです。
打ち込みとは?
打ち込みとは、1インチ(2.54cm)あたりに織り込まれている経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の本数のことを指します。表記は「120×100」など、経糸×緯糸で表されます。
「打ち込み(打込)」という語は、古くからの織機で、緯糸を杼(ひ)で通し、経糸を筬(おさ)で“打ち込む”動作に由来しています。
この本数が多い生地は、「目が詰まっている」「打ち込みが強い」と言われ、品質や仕立て映えを左右する非常に重要な要素になります。
打ち込みが多いとどうなるのか?
打ち込みが多い(=高密度)生地は、糸と糸の間隔が詰まり、隙間が少なくなるため、以下のような特性が生まれます:
ハリとコシが生まれる
摩耗や引っ張りに強く、耐久性が高い
弾性(反発力)が増し、シワになりにくい
立体的な造形を美しく再現できる(=仕立て映え)
特にジャケットやコートのラペルや肩周りといった造形的な部分においては、「打ち込みによる反発性」が極めて重要です。
一方で、あまりに高密度すぎると柔軟性が低下する可能性もありますが、上質な細番手の糸を使えば、しなやかさと反発性を両立させることができます。
湿度の高い日本の気候においては、打ち込みの甘い織物ではシワが残りやすく、さらに汗を吸った状態で摩擦を受けると、生地が毛羽立ったり傷みやすくなります。
高密度の織物は、糸そのものに反発性があり、通気性を保ちながらもハリのある表情を維持してくれる為、結果として盛夏でも清潔感を保ち、長く着られる実用的なスーチングとして非常に重宝されてます。
国産・英国・イタリアブランドの打ち込み比較
生産国 | 特徴的な打ち込み密度(目安) | 質感・印象 |
英国 | 130×120〜150×130 | 太番手糸と高密度で、ハリ・耐久性重視。重厚かつ構築的。長く着込める正統派スーツに最適。 |
イタリア | 100×90〜120×100 | 細番手糸とやや高密度の組み合わせで、光沢と軽やかさを両立。滑らかで柔らかな風合い。 |
日本(国産) | 120×100〜130×120 | 英国ほどの重厚さはないが、ハリ感と軽さのバランスが良く、扱いやすさに優れる。 |
※打ち込み本数はブランドやシリーズにより異なり、公式には公開されないことが多いため、あくまで目安としてご覧ください。
“繊細な見た目”と“構造的強さ”は両立できる
光沢感のあるラグジュアリーな生地をお好みの方も多いと思います。
たとえば Super150’s 以上の極細繊維や細番手の糸を使った生地は、ともすれば“繊細すぎて構造性が乏しい”と見られがちですが、実際には高密度で織り上げることで、艶やかな表情を保ちながら、構造的な強さや仕立て映えも兼ね備えることができます。
個人的な好みを挙げれば、Dormeuil(ドーメル)の《Amadeus》、Ermenegildo Zegna(エルメネジルド・ゼニア)の《ELECTA(エレクタ)》、Harrisons of Edinburgh(ハリソンズ・オブ・エジンバラ)の《Premier Cru(プルミエ・クリュ)》などは、「光沢」と「構築性」の両立を非常に高い水準で実現しているファブリックだと感じます。
構造的美しさと強さ
生地は、単に触れたときの感触や色柄だけで判断されるものではありません。その奥に潜む「構造的情報」たとえば打ち込みの密度を知ることで、見た目の美しさと着たときの体験に、より深い理解と納得が生まれます。
次回以降も、こうした“生地を深く味わう視点”を共有していけたらと思います。

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