パンツの宿命—「股擦れ」という現象
- web7455
- 8月19日
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更新日:9月4日
パンツの内股部分が擦れて薄くなり、やがて破れてしまう—いわゆる「股擦れ」。
多くの方が経験されているのではないでしょうか。
最初はわずかな毛羽立ち程度だったのが、着用を重ねるごとに生地が頼りないほど薄くなっている。その瞬間の落胆は、服を愛する人にとって決して小さくない出来事です。
しかし、股擦れは決して珍しい現象ではありません。その原因と対策を理解することで、愛用のトラウザーズの寿命を、これからお仕立てするトラウザーズの寿命を大きく延ばすことが可能になります。
サイズ設計という基礎の重要性
股擦れの多くは、サイズ設計のわずかな不足から始まります。
特に股間・ヒップ・渡り(もも周り)のゆとりが足りないと、歩くたびに布同士、あるいは布と肌が擦れ合い、その摩擦が少しずつ生地を削っていきます。
これを防ぐためには、まず股上に適切な深さを確保し、無理のない着心地を実現することが大切です。さらに、ヒップと渡りに十分なゆとりを持たせることで、動きやすさと耐久性の両立が可能になります。布が接触する面積を減らし、摩耗を最小限に抑えることで股擦れのリスクは大幅に減ります。
こうした細やかな配慮こそが、見た目の美しさと日常使いに耐える実用性を、同時に実現するのです。
また、シック布(補強布)を内股に施すことで、摩耗によるダメージを大幅に軽減できます。
耐久性を重視した素材選び
軽量で柔らかいウールや細番手の糸を使った生地は、肌触りは良い反面、摩耗には弱い傾向があります。
また、耐久性をあげる意味でもよく用いられる化学繊維を混紡・混織した生地(ポリエステル、ナイロン、コーデュラ®など)は確かに耐摩耗性に優れ、ワークウェアやカジュアルトラウザーズに重宝されます。ただし、毛玉(ピリング)が発生しやすいという課題があります。
そこで注目すべきなのは、ウール100%でありながら摩耗に強い高品質な生地です。
具体的にはウール100%でも打ち込みがしっかりしていて太番手を使った生地がおすすめです。
以下に耐久性と品質を兼ね備えたおすすめの生地を挙げさせていただきます。
・Vitale Barberis Canonico(ヴィターレ・バルベリス・カノニコ)21マイクロン・ウールを使用した太番手生地は、打ち込み密度が高く、優れた耐久性と弾力性を備えています。
・Holland & Sherry(ホーランド&シェリー) – Crispaire(クリスパイア) 強撚糸による高い通気性と皺の復元力、股擦れしにくい耐摩耗性が魅力。
・Fox Brothers(フォックス・ブラザーズ) – Fox Air 太番手の強撚糸を用い、打ち込み密度が高く、春夏でも耐久性を確保。
Harrisons of Edinburgh(ハリソンズ) – Frontier / Fine Classics クラシックな太番手ウールを高密度に織り上げ、ドレープ感と耐久性を両立。日常使いにも長年耐える。
Smith Woollens(スミス・ウーレンズ) – Finmeresco(フィンメレスコ) 英国ハイツイストの代表格。シャリ感と通気性があり、摩耗や型崩れに非常に強い。
上記のシリーズは代表的なごくわずかですが、それぞれに風合いの違いやブランドの個性もあるため、実際に目で見て確かめてみてはいかがでしょうか。
永く愛用するための日常ケア
どんなに優れた素材と仕立てでも、日々の扱い方で寿命は大きく変わります。
愛用するトラウザーズを長く美しい状態で保つためには、日々の小さな習慣が欠かせません。
まず、ローテーションして着用することを心掛け、同じパンツを連続して着用するのは避け、最低でも2日以上の休養日を設けます。これは、生地が本来の形状やハリを回復するための時間を与えるためです。
次に、着用後は馬毛ブラシで表面の汚れや埃を落とし、風通しの良い場所に吊るして湿気をしっかり飛ばします。ハンガーは太めの物を使用するか、パンツハンガーを使用し、クリース(折り目)を意識して吊るすことで型崩れを防げます。 さらに、ドライクリーニングは生地に負担をかけるため、必要最低限に留めることも重要です。軽い汚れや臭いであればスチームアイロンや霧吹きでの手入れで十分な場合も多くあります。
長期保管する際は、防虫対策を怠らず、湿度の低い場所を選ぶことも大切です。
また、時々風を通し、生地の状態をチェックすることで早期に問題を発見できます。
こうしたささやかな配慮の積み重ねが、トラウザーズの寿命を数年単位で延ばし、長く愛用することにつながります。
Drapper Hopeの哲学 — 時を超える価値
私たちDrapper Hopeが大切にしているのは、ただ見た目が美しいスーツではありません。
10年後、20年後に振り返っても「やっぱり格好いい」と思える一着。
流行や一過性のトレンドに左右されることなく、仕立ての精度と生地の力で永く生き続けるスタイルを追求しています。
見た目の美しさはもちろん重要ですが、何より「長くご着用いただける一着」であることを第一に考えています。
お客様が年月を重ねるごとに、そのスーツもまた味わいを増し、人生の物語を刻んでいく。
それは単なる衣服を超えた、人生のパートナーであり続ける存在です。
良いものを永く、大切に。それがDrapper Hopeの変わらない信念です。

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