今、トレンチコートが面白い。
文:脇山晃樹
今、トレンチコートが面白い。|2027年春夏のトレンドから考える
皆さんこんにちは。南青山のDrapper Hopeでございます。
現在開催されている2027年春夏のパリ・ファッションウィーク。
各ブランドのコレクションを見ていて、個人的に少し気になったアイテムがあります。
それはトレンチコートです。
もちろん、トレンチコート自体は決して珍しいものではありません。
毎シーズンのように登場する定番ですし、長く作り続けているブランドもあります。
ただ、2027年春夏のコレクションを見ていると、多くのブランドから提案がされているように感じました。
Chloéをはじめ、Saint Laurent、Maison Margielaなど、さまざまなブランドでトレンチ、あるいはトレンチをベースに再構築したようなアウターが登場しています。
しかも、昔ながらのベージュのコットンギャバジンだけではありません。
大きく身体を包むものもあれば、丈やシルエットを大胆に変えたもの、光沢のある素材を使ったものまで、その表現もさまざまです。
「トレンチコートが流行っている」と言ってしまえばそれまでなのですが、これだけいろいろなブランドが同じ服に目を向けているのを見ると、もう少し理由がありそうです。
今回は、なぜ今トレンチコートが面白く見えるのか。
2027年春夏のトレンドを入口に、少し考えてみたいと思います。
Max Mara 2027SS Chloé2027SS Maison Margiela2027SS BALENCIAGA2027SS THE ROW2027SS SAINT LAURENT2027SS TOM FORD2027SS
100年以上残っている「実用品」
現在ではファッションアイテムとして当たり前に着られているトレンチコートですが、その原型は軍用コートとして発展してきたものです。
大きな襟やエポレット、ガンフラップ、ベルトなど、今ではデザインとして見られるディテールの多くも、もともとは実用性から生まれたもの。
その後、軍服から市民の服へと広がり、さまざまなカルチャーの中で着られながら、100年以上にわたって形を変えてきました。
トレンチコートの成り立ちや、それぞれのディテールについては以前の記事で詳しくご紹介していますので、気になる方はこちらもぜひご覧ください。
100年以上前に原型ができた服が、今の街で着ていても古臭く見えない。
むしろ今、改めて新鮮に見えている。
ここに、トレンチという服の面白さがあるように思います。
昔からある服が、また面白くなっている
ここ数年のファッションを見ていると、トレンチだけではなく、昔からある服が改めて面白くなっているように感じます。
テーラードジャケット、シャツ、デニム、ボンバージャケット、サファリジャケット、ワークウェア。
まったく新しいものを作るというより、すでにあるものを今のバランスに置き換える。
バランスを変えてみたり、素材を変えてみたり、ギミックを加えてみたり。
「何を着るか」だけではなく、昔からある服を今どう着るか。
そんなところに、今のファッションの面白さがあるのかもしれません。
その中でも、トレンチコートは少し特殊だと感じています。
エポレットをなくしても、丈を変えても、生地をまったく違うものにしても、襟やベルト、ガンフラップなどが少し残っていれば、不思議とトレンチに見えます。
ある程度完成された「型」があるからこそ、自由に変えることができる。
今季さまざまなブランドがトレンチを取り上げているのも、そんなところに理由があるのかもしれません。
今の時代と、実用的な服
もう一つ気になるのが、トレンチに限らず、実用性から生まれた服が改めて注目されていることです。
ミリタリーウェアやワークウェア、フィールドジャケット、サファリジャケット、カーゴパンツ。
2027年春夏のMax Maraでも「Utility Luxe」という言葉が使われ、トレンチコートやサファリジャケットなど、実用服をベースにしたアイテムが多く登場しています。
ポケットがあり、身体を覆い、雨風を防ぐ。
見た目のためだけではなく、使うために形が決まっていった服です。
世界情勢や物価の上昇など、先の見えにくいことが多い現在。
もちろん、それとファッションを直接結びつけるのは少し乱暴だと思います。
ただ、目新しさだけではなく、ちゃんと使えて、長く付き合えるものに改めて魅力を感じる。
そんな空気は、少なからずあるような気がしています。
MAX MARA2027SS MAX MARA2027SS MAX MARA2027SS MAX MARA2027SS
実用的なのに、どこかロマンチック
一方で、最近のファッションには少し違った流れもあります。
古着やクラシックなアイテム、少し時間を感じさせる服。
着込まれたシャツやニット、ロングコート、革靴。
文学や古い映画の登場人物が着ていそうな、少し物語を感じるような服も、また気になる存在になっています。
最近耳にする「ポエットコア」と呼ばれる流れも、その一つかもしれません。
そう考えると、トレンチコートという服はなかなか面白いです。
もともとは軍用の、とても合理的な服。
それなのに今の私たちがトレンチから連想するのは、軍隊だけではありません。
古い映画だったり、雨の街だったり、旅だったり。
実用性から生まれた服なのに、どこかロマンチックでもある。
長い時間をかけて、いろいろなイメージが一着のコートに重なってきたのでしょう。
機能的だけれど、どこか物語がある。
そんな少し曖昧なところも、今の空気にトレンチが馴染んでいる理由なのかもしれません。
カトリーヌ・ドヌーヴ『シェルブールの雨傘』(1964) ハンフリー・ボガート『カサブランカ』(1942)
長く着ることも、服の楽しみ方のひとつ
そしてもう一つ、服の選び方そのものも少しずつ変化しているように思います。
毎シーズン新しいものへ買い替えるだけではなく、本当に気に入ったものを選んで、長く着る。
古着を買うこともそうですし、靴や洋服を修理しながら使うことも、以前より身近になりました。
「サステナブル」という言葉を使うと少し大きな話に聞こえますが、もっとシンプルに考えてもいいと思います。
気に入った服を、ちゃんと着る。
それだけでも、服との付き合い方はずいぶん変わるのではないでしょうか。
新品の状態が一番きれいな服もありますが、皺が入り、生地が少し柔らかくなり、身体に馴染んでいくことで良くなっていく服もあります。
トレンチコートは、どちらかといえば後者だと思います。
長く着ることで、その人の一着になっていく。
100年以上残ってきた服が、今また注目されていることにも、どこか繋がる部分があるように感じます。
クラシックは、本当に「変わらないもの」なのか。
クラシックという言葉を聞くと、「昔から変わらないもの」というイメージがあります。
ただ、トレンチコートの歴史を見てみると、実際にはずっと変化しています。
丈も、シルエットも、生地も、着る人も変わってきました。
変わらないから残ったのではなく、変わり続けたから残った。
これはスーツやジャケット、シャツなどにも言えることだと思います。
昔のものをそのまま再現することだけが、クラシックを楽しむ方法ではありません。
今の気分に合わせて、少しだけバランスを変えてみる。
そのくらいの距離感で付き合う方が、案外長く着られるのかもしれません。
今着たいものを、長く着られるものに。
では、今トレンチコートを作るなら、どんなものが良いのでしょうか。
王道のコットンギャバジンで作るのも、もちろん良いと思います。
ウールギャバジンなら、コットンとはまた違った落ち感や柔らかな表情を楽しめます。
ハリのあるツイルなら、もう少し力強く。
軽いコットンやリネン混を使えば、同じトレンチでもぐっと軽やかな雰囲気になります。
色もベージュだけではありません。
ネイビーやカーキ、ブラウン、チャコール。
あるいは、少し変わった色や柄で作ってみても面白いかもしれません。
同じ「トレンチ」という型でも、生地が変われば印象は大きく変わります。
Drapper Hopeでも、さまざまな生地を使ったコートをオーダーしていただけます。
流行しているものを、そのまま作る必要はありません。
今の空気を少しだけ取り入れながら、自分が数年後にも着たいと思えるものを考えてみる。
今着たいものを、長く着られるものに。
トレンチコートが改めて面白くなっている今、そんな一着を考えてみるのも良いのではないでしょうか。






コメント