クラシックだけじゃない、英国ツイード。|MOON
文:脇山晃樹
皆さんこんばんは。南青山のDrapper Hopeでございます。
前々回のブログでは、「スーツにも旬はあるのか」というテーマで、季節と服について書かせていただきました。
一年を通して着られる服が増えている一方で、秋冬になると不思議と手に取りたくなる素材があります。
フランネルやコーデュロイ、そしてツイード。
今回はその中でも、少し変わった「ファンシーツイード」について書いていこうと思います。
ちょうど現在、Drapper Hopeでも英国の生地メーカー「Abraham Moon & Sons」のファンシーツイードを使ったレディーススーツを、Atelier’Dと制作しています。
一般的にイメージするツイードとは少し違う、華やかで表情のある生地です。
ツイードだけど、少し違う
「ツイード」と聞くと、どんな生地を思い浮かべるでしょうか。
ハリスツイードのような厚手の生地や、ヘリンボーン、ホームスパンなど。
少しざらっとしていて、厚みがあり、どこか素朴な雰囲気。
もともとツイードは英国の寒い地域で、日常着や狩猟などに使われてきた実用的な服地です。
※ツイードについて、もっと詳しい方は過去のブログをご参考ください。「ツイード」についてはこちら
ツイードの生地
一方、今回使っているのは「ファンシーツイード」と呼ばれるもの。
同じツイードでも、近くで見てみると随分と様子が違います。
ファンシーツイードの生地
太い糸と細い糸が混ざっていたり、糸がループしていたり、ところどころ違う色や光沢が入っていたり。きれいに均一な生地というより、あえて不均一につくられています。
その表情をつくる方法のひとつが、「意匠糸」と呼ばれる装飾性を持たせた糸です。
糸の太さを部分的に変えたり、ループをつくったり、毛羽を出したり。
普通なら「ムラ」と捉えられそうなものを、あえてデザインにしてしまう。
そのため、ファンシーツイードは単純に柄を見るというよりも、糸そのものを見るのが面白い生地です。
少し離れるとひとつの色や柄に見えるのに、近づいてみると何種類もの糸が複雑に入り混じっている。
個人的には、この距離によって見え方が変わるところが、ファンシーツイードの魅力だと思っています。

ツイードをファッションにしたCHANEL
ファンシーツイードについて話すと、やはりCHANELの存在は外せません。
もともと英国で実用着として使われていたツイードを、ガブリエル・シャネルは1920年代から女性の服へ取り入れていきました。
そして1950年代以降、色彩豊かなツイードを使ったジャケットやスーツは、CHANELを象徴するもののひとつになっていきます。
丈夫で素朴だったツイードが、華やかなファッションの素材にもなった。
その背景には、英国の生地メーカーの存在もありました。
なかでも有名なのが、イングランド北西部・カーライルの「Linton Tweeds」です。
さまざまな色や太さ、素材の糸を組み合わせた表情豊かなツイードを得意とし、CHANELへ生地を供給してきたことでも知られています。
いわゆる「シャネルツイード」を思い浮かべたときの、複雑な色使いや立体的な糸の表情。
ファンシーツイードという生地を知るうえで、Linton Tweedsは外せない存在です。
CHANELのツイードスーツ
MOONという選択
今回ご紹介するのは、英国・ヨークシャーの老舗ミル、Abraham Moon & Sons。
1837年創業のメーカーで、現在も原毛から染色、紡績、織り、仕上げまでの工程を自社で行う「Vertical Mill」として生地を生産しています。
MOONというと、ジャケットやコートに使われる英国らしいツイードを思い浮かべる方も多いと思います。
ただ、生地を見ていくと、それだけではありません。
色の組み合わせが面白いものや、糸そのものに特徴のあるもの、今回のようなファンシーツイードまで、かなり幅があります。
老舗の英国ミルでありながら、決して「昔ながら」だけに留まっていない。
そこがMOONの面白いところです。
MOONのファンシーツイード MOONのファンシーツイード
なぜ、今回はMOONなのか
今回MOONを選んだ理由も、そこにあります。
ファンシーツイードには装飾性の強いものも多く、一歩間違えると生地の存在感だけが先に立ってしまいます。
それも魅力ではありますが、今回つくりたかったのは、もう少し日常の服として着られるもの。
華やかさはありながら、きちんと洋服として成立する。
クラシックな背景を持ちながら、今の服として使える。
そのバランスを考えたとき、MOONの生地がちょうどよく感じました。
クラシックな素材を、そのままクラシックに着る必要はない。
これは今回の生地選びでも大切にしたところです。
Atelier’Dで、一着のジャケットへ
そして現在、このMOONのファンシーツイードを使い、Atelier’Dとレディーススーツを制作しています。
今回選んだのは、あえて真っ黒のファンシーツイード。
色柄ではなく、生地そのものの質感が際立つものを選びました。
一見するとシンプルな黒ですが、近くで見ると糸の太さや凹凸、毛羽立ちがあり、一般的な黒無地とはまったく違った表情があります。
光が当たれば、その凹凸によって細かな陰影が生まれる。
黒一色だからこそ、ファンシーツイード特有の複雑な組織や素材感が、かえってよく見えてきます。
色ではなく、質感で見せる。
今回は、そんなファンシーツイードの使い方をしてみました。
生地の状態でも十分に存在感がありますが、服になったときには、また違った表情が出てきます。
丈をどうするのか。身体からどれくらい離すのか。ボタンをどう合わせるのか。どんなパンツやスカートと着るのか。
今回のような黒一色の生地だからこそ、形やディテールによってクラシックにも、モダンにも振ることができます。
生地そのものに存在感があるから、服の形はむしろ引き算して考えてもいい。
反対に、その質感を生かして、少し思い切った一着にするのも面白い。
今回のスーツも、MOONの生地が持っている表情を残しながら、今の普段着としてどう着られるかをAtelier’Dと考えながら制作しています。
Atelier’Dで制作途中のツイードスーツ
生地から、服になるまで
平らな一枚の生地が裁断され、縫われ、身体の上に乗ることでどう変わっていくのか。
その過程も、ファンシーツイードを扱う楽しさのひとつです。
今回の写真はまだ制作途中。
しつけ糸やピンが残り、完成した洋服とはまた違った姿ですが、生地が少しずつ立体になっていく様子を見ることができます。
完成しましたら、仕立てやディテールも含めて改めてご紹介できればと思っています。
秋冬らしいスーツやジャケットを探している方はもちろん、普段の服装に少し違った素材を取り入れてみたい方にも、ファンシーツイードは面白い選択肢です。
Drapper HopeではMOONをはじめ、さまざまな色柄や質感の生地をご覧いただけます。
写真だけではなかなか伝わらない生地でもありますので、お近くにいらした際には、ぜひ実際に触れてみてください。
遠くから見ると、黒い一着。近くで見ると、複雑な素材の表情がある。
そして服になり、身体が動くと、また違って見える。
色ではなく、質感で見せるファンシーツイード。
今回の一着が完成したときに、どんな表情になるのか。
私自身も楽しみにしています。







コメント