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クラシックだけじゃない、英国ツイード。|MOON

10月9日
読了時間: 6分


皆さんこんばんは。南青山のDrapper Hopeでございます。

前々回のブログでは、「スーツにも旬はあるのか」というテーマで、季節と服について書かせていただきました。


一年を通して着られる服が増えている一方で、秋冬になると不思議と手に取りたくなる素材があります。


フランネルやコーデュロイ、そしてツイード。


今回はその中でも、少し変わった「ファンシーツイード」について書いていこうと思います。


ちょうど現在、Drapper Hopeでも英国の生地メーカー「Abraham Moon & Sons」のファンシーツイードを使ったレディーススーツを、Atelier’Dと制作しています。


一般的にイメージするツイードとは少し違う、華やかで表情のある生地です。






ツイードだけど、少し違う

「ツイード」と聞くと、どんな生地を思い浮かべるでしょうか。

ハリスツイードのような厚手の生地や、ヘリンボーン、ホームスパンなど。

少しざらっとしていて、厚みがあり、どこか素朴な雰囲気。


もともとツイードは英国の寒い地域で、日常着や狩猟などに使われてきた実用的な服地です。

※ツイードについて、もっと詳しい方は過去のブログをご参考ください。「ツイード」についてはこちら


  • ツイードの生地



一方、今回使っているのは「ファンシーツイード」と呼ばれるもの。

同じツイードでも、近くで見てみると随分と様子が違います。


  • ファンシーツイードの生地


太い糸と細い糸が混ざっていたり、糸がループしていたり、ところどころ違う色や光沢が入っていたり。きれいに均一な生地というより、あえて不均一につくられています。


その表情をつくる方法のひとつが、「意匠糸」と呼ばれる装飾性を持たせた糸です。


糸の太さを部分的に変えたり、ループをつくったり、毛羽を出したり。

普通なら「ムラ」と捉えられそうなものを、あえてデザインにしてしまう。

そのため、ファンシーツイードは単純に柄を見るというよりも、糸そのものを見るのが面白い生地です。


少し離れるとひとつの色や柄に見えるのに、近づいてみると何種類もの糸が複雑に入り混じっている。


個人的には、この距離によって見え方が変わるところが、ファンシーツイードの魅力だと思っています。


意匠糸の糸見本
様々な意匠糸



ツイードをファッションにしたCHANEL


ファンシーツイードについて話すと、やはりCHANELの存在は外せません。


もともと英国で実用着として使われていたツイードを、ガブリエル・シャネルは1920年代から女性の服へ取り入れていきました。


そして1950年代以降、色彩豊かなツイードを使ったジャケットやスーツは、CHANELを象徴するもののひとつになっていきます。


丈夫で素朴だったツイードが、華やかなファッションの素材にもなった。

その背景には、英国の生地メーカーの存在もありました。


なかでも有名なのが、イングランド北西部・カーライルの「Linton Tweeds」です。

さまざまな色や太さ、素材の糸を組み合わせた表情豊かなツイードを得意とし、CHANELへ生地を供給してきたことでも知られています。


いわゆる「シャネルツイード」を思い浮かべたときの、複雑な色使いや立体的な糸の表情。

ファンシーツイードという生地を知るうえで、Linton Tweedsは外せない存在です。


  • CHANELのツイードスーツ



MOONという選択


今回ご紹介するのは、英国・ヨークシャーの老舗ミル、Abraham Moon & Sons。


1837年創業のメーカーで、現在も原毛から染色、紡績、織り、仕上げまでの工程を自社で行う「Vertical Mill」として生地を生産しています。


MOONというと、ジャケットやコートに使われる英国らしいツイードを思い浮かべる方も多いと思います。


ただ、生地を見ていくと、それだけではありません。

色の組み合わせが面白いものや、糸そのものに特徴のあるもの、今回のようなファンシーツイードまで、かなり幅があります。


老舗の英国ミルでありながら、決して「昔ながら」だけに留まっていない。

そこがMOONの面白いところです。



  • MOONのファンシーツイード
  • MOONのファンシーツイード



なぜ、今回はMOONなのか


今回MOONを選んだ理由も、そこにあります。

ファンシーツイードには装飾性の強いものも多く、一歩間違えると生地の存在感だけが先に立ってしまいます。


それも魅力ではありますが、今回つくりたかったのは、もう少し日常の服として着られるもの。


華やかさはありながら、きちんと洋服として成立する。

クラシックな背景を持ちながら、今の服として使える。

そのバランスを考えたとき、MOONの生地がちょうどよく感じました。


クラシックな素材を、そのままクラシックに着る必要はない。

これは今回の生地選びでも大切にしたところです。






Atelier’Dで、一着のジャケットへ


そして現在、このMOONのファンシーツイードを使い、Atelier’Dとレディーススーツを制作しています。


今回選んだのは、あえて真っ黒のファンシーツイード。


色柄ではなく、生地そのものの質感が際立つものを選びました。


一見するとシンプルな黒ですが、近くで見ると糸の太さや凹凸、毛羽立ちがあり、一般的な黒無地とはまったく違った表情があります。


光が当たれば、その凹凸によって細かな陰影が生まれる。

黒一色だからこそ、ファンシーツイード特有の複雑な組織や素材感が、かえってよく見えてきます。


色ではなく、質感で見せる。


今回は、そんなファンシーツイードの使い方をしてみました。

生地の状態でも十分に存在感がありますが、服になったときには、また違った表情が出てきます。


丈をどうするのか。身体からどれくらい離すのか。ボタンをどう合わせるのか。どんなパンツやスカートと着るのか。


今回のような黒一色の生地だからこそ、形やディテールによってクラシックにも、モダンにも振ることができます。


生地そのものに存在感があるから、服の形はむしろ引き算して考えてもいい。


反対に、その質感を生かして、少し思い切った一着にするのも面白い。


今回のスーツも、MOONの生地が持っている表情を残しながら、今の普段着としてどう着られるかをAtelier’Dと考えながら制作しています。








  • Atelier’Dで制作途中のツイードスーツ



生地から、服になるまで


平らな一枚の生地が裁断され、縫われ、身体の上に乗ることでどう変わっていくのか。

その過程も、ファンシーツイードを扱う楽しさのひとつです。


今回の写真はまだ制作途中。

しつけ糸やピンが残り、完成した洋服とはまた違った姿ですが、生地が少しずつ立体になっていく様子を見ることができます。


完成しましたら、仕立てやディテールも含めて改めてご紹介できればと思っています。

秋冬らしいスーツやジャケットを探している方はもちろん、普段の服装に少し違った素材を取り入れてみたい方にも、ファンシーツイードは面白い選択肢です。


Drapper HopeではMOONをはじめ、さまざまな色柄や質感の生地をご覧いただけます。

写真だけではなかなか伝わらない生地でもありますので、お近くにいらした際には、ぜひ実際に触れてみてください。


遠くから見ると、黒い一着。近くで見ると、複雑な素材の表情がある。

そして服になり、身体が動くと、また違って見える。


色ではなく、質感で見せるファンシーツイード。


今回の一着が完成したときに、どんな表情になるのか。

私自身も楽しみにしています。








執筆者のプロフィール画像
脇山 晃樹 1998年、東京都出身。バンタンデザイン研究所ファッション学部を卒業後、大手紳士服メーカーのオーダー部門で7年間勤務。現在はDrapper Hopeでフィッターとして活動。
Atelier’Dのロゴマーク
Atelier’D パリや東京のコレクションブランド、舞台・映画・CMなどで経験を積んだパタンナーが、一着一着を制作。クチュールから洋服の再構築・リメイクまで、既製品では実現できない一着を形にします。

 
 
 

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