【コートの歴史#1】英国エレガンスの象徴:チェスターコートとアルスターコートのルーツ
- web7455
- 7 日前
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「格」をまとうオーバーコートの誕生
—チェスターコートとアルスターコート—
寒い季節に羽織るコート。現代ではファッションアイテムの一つですが、その歴史を紐解くと、19世紀のイギリス上流階級における「ドレスコード」の一部だったという側面が見えてきます。
当時の紳士たちは、フロックコートや燕尾服といった正装(ドレス)の上から、その「格」にふさわしいオーバーコートを着用する必要がありました。単なる寒さ対策ではなく、自分の地位や品格を示すための必須アイテムだったのです。
今回ご紹介するのは、この時代の英国紳士のエレガンスを今に伝える二つの名作。最もフォーマルなチェスターコートと、旅で活躍した重厚なアルスターコートのルーツを辿ってみましょう。
チェスターコート:伯爵が愛した「最もフォーマルなコート」の秘密
伯爵がファッション界に遺した功績
チェスターコートは、現在知られるコートの中で「最もフォーマルな地位」を持つと言われています。その名の由来となったのは、19世紀半ばのイギリスで活躍した第6代チェスターフィールド伯爵です。彼は当時のファッションリーダーであり、その優雅な着こなしや革新的な服装センスは、社交界で常に注目の的でした。
伯爵が愛用したこのコートは、フロックコートや燕尾服などの正装の上から羽織ることを前提に考案されました。そのため、「いかに美しく、ドレッシーに見せるか」という点が徹底的に追求され、無駄を削ぎ落とした洗練されたデザインが完成したのです。
フォーマルウェアと共通する「襟」の構造
チェスターコートが持つ格式の高さは、その襟元に秘密があります。
このコートは、スーツやジャケットと同じく、下襟が上襟に食い込む形で切り込みが入ったノッチド・ラペル(切り込み襟)を持っています。これは、テーラードジャケットと共通の構造であり、礼装との親和性が高いことを示し、フォーマルな印象を与えます。
さらに、前立てのボタンを生地で覆い隠す比翼仕立て(フライフロント)が採用されることが多く、これによりデザインが極限までシンプルに、より上品で洗練された佇まいを強調します。身体のラインに沿った細身でまっすぐなIラインシルエットも、着用者をスマートに見せるための工夫です。
アルスターコート:旅人のための「重厚なエレガンス」
鉄道旅行時代の到来が生んだトラベルコート
一方、アルスターコートは、チェスターコートとは異なる目的、主に長距離の旅行・移動用(トラベルコート)として発達しました。19世紀後半、蒸気機関車の発展により鉄道旅行が一般化すると、富裕層は頻繁に移動するようになります。しかし、当時の客車は隙間風がひどく、厳しい寒さでした。
そこで、寒さの厳しい北アイルランドのアルスター(Ulster)地方で作られていた、厚手のウール生地を使ったコートが注目されます。この生地と、旅の厳しさに耐えるデザインを取り入れたのが、アルスターコートのルーツです。
防寒性と重厚感を両立したディテール
アルスターコートの特徴は、その重厚感と、旅の厳しい条件に対応するための工夫にあります。
襟元は、上襟と下襟の幅がほぼ同じのアルスターカラーと呼ばれるダブル(二重)の襟型で、襟を立てた際に首元をしっかりと覆い、防寒性に優れています。前合わせが二重のダブルブレストであることも、重厚感と暖かさを高める要素です。
また、旅先で着崩れしないよう、ウエスト位置には、ゆったりとしたシルエットを引き締め、コートの重さを分散させるためのバックベルトが必ず備わっています。初期には、雨風から身を守るためのフードやケープが付属したものもあり、このコートが「実用的な旅の友」であったことを物語っています。
歴史を知れば、着こなしが変わる
正装の上に羽織るために「格式」を追求したチェスターコート。そして、旅の厳しさに耐える「重厚な実用性」を追求したアルスターコート。
どちらも19世紀の英国紳士の生活の中から生まれ、そのデザインには確固たる理由があります。このルーツを知っているだけで、コートを着る際の意識が変わり、よりエレガントな着こなしになるはずです。
当店では、チェスターコートとアルスターコートに加え、ラグランコート、バルカラーコート、ピーコートがお作りいただけます。
サイズ感にこだわることで、一生モノの品格となります。
ぜひ、この知識を活かし、あなたの体型に合った一着を仕立ててみませんか。







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