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「貧しい人々のベルベット」と呼ばれた高貴な素材、コーデュロイの真実

  • web7455
  • 11月4日
  • 読了時間: 3分


コーデュロイの数奇な旅路──労働着からファッションの定番へ

「秋冬に着たい素材」と聞いて、まず思い浮かぶのがコーデュロイジャケットではないでしょうか。柔らかく、どこか懐かしい風合いを持つこの生地。実は、2000年以上の歴史をたどってきた“生きた素材”なのです。この記事では、コーデュロイの歴史・特徴・スーツでの魅せ方を、少し文化的な視点から解説します。



CARNET,DORMUIL,ZEGNAのコーデュロイ生地


始まりは古代エジプト──「フスタン」という祖先

コーデュロイの起源は、紀元200年ごろの古代エジプトに遡ります。当時は「フスタン(fustian)」と呼ばれる厚手の生地で、リネンと綿糸を組み合わせて織られ、片面を起毛させることで保温性と耐久性を高めていました。

その丈夫さから、寝具や聖職者の法衣としても使われ、中世にはイタリア商人によってヨーロッパに広まりました。寒冷な気候の中で高く評価され、貴族たちの冬服として重宝されたのです。




「王様の畝」──ルイ14世の伝説とマンチェスターの革新

18世紀、産業革命が始まったイギリス・マンチェスターで、このフスタン織の生地は改良され、より柔らかく乾きやすい現代的なコーデュロイへと発展しました。

この頃、「コーデュロイ(corduroy)」という名が登場します。フランス語の「corde du roi(王様の畝)」に由来するという説が有名です。

一説では、フランス王ルイ14世が召使の粗末な服装を見かねて、「王に仕える者にこそ、上質な布を着せよ」と命じ、フスタン織の制服を与えたことがきっかけと伝えられています。

この逸話から、「王様の畝」という美しい響きを持つ名前が生まれたのです。実際にはイギリスの織物業者による命名説もありますが、この“王の物語”が、コーデュロイに気品と物語性を与えていることは間違いありません。




「貧しい人々のベルベット」

19世紀に入ると、コーデュロイは労働者の制服へと姿を変えます。驚くほどの耐久性・防寒性・手頃な価格が、炭鉱労働者や農夫に支持されました。この頃、「貧しい人々のベルベット(poor man’s velvet)」という呼び名が生まれます。

それは皮肉を込めた言葉でありながら、“上質さを失わずに日常を支える”という、コーデュロイ本来の美徳をよく表しています。




芸術家とカウンターカルチャーが見つけた魅力

20世紀になると、コーデュロイは再び脚光を浴びます。ヨーロッパの芸術家や知識人が、労働者階級の象徴であるこの素材をあえて身に纏うことで、反体制的・自由な精神を表現しました。

第二次世界大戦中には、イギリスの女性陸軍補助部隊の制服にも採用され、その実用性が再評価されます。

そして1970年代、ビートルズやローリング・ストーンズといった音楽と反骨の時代の象徴によって再び流行。コーデュロイは“知的でタフなファッション”として定着しました。




現代のコーデュロイ──「温もり」と「知性」の象徴

現代では、コーデュロイは秋冬スーツやジャケット素材の定番として愛されています。畝(うね)が生む陰影が立体感を演出し、光の当たり方によって柔らかくも力強い印象を与えます。

オーダースーツでも、・フランネルより軽やかに・ツイードより上品に季節感を取り入れる生地として人気です。

カジュアルにもドレスにも対応できるその懐の深さは、まさに“知的な温もり”をまとう布といえるでしょう。




一本の畝に刻まれた、時代の記憶

古代エジプトのフスタンから、ルイ14世の宮廷、そして労働者の現場、芸術家のアトリエへ。

コーデュロイは、時代も階層も越えて愛され続けてきた生地です。

次にコーデュロイのジャケットやスーツに袖を通すとき、その畝の一本一本に宿る“歴史の手触り”を、ぜひ感じてみてください。







執筆者のプロフィール画像
脇山 晃樹 1998年、東京都出身。バンタンデザイン研究所ファッション学部を卒業後、大手紳士服メーカーのオーダー部門で7年間勤務。現在はDrapper Hopeでフィッターとして活動。

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